2024年10月05日

「一本刀土俵入」1960

一本刀土俵入.png
〔1960年/日本/大映〕



利根川べりの茶屋・安孫子屋の表では、
土地の顔役、波一里儀十の身内船戸の弥八が
大暴れしている。

興行先でお払い箱になり仕方なく江戸へ向かう
駒形茂兵衛はこの弥八にからまれてしまった。

この様子を二階からみていた安孫子屋の酌婦お蔦は、
上から弥八をけん制、茂兵衛に声援をおくった。
それに力を得た茂兵衛は弥八の胸に頭突きを入れて
倒すが自分も座りこんでしまった。

お蔦は彼が腹を空かしていると聞くと巾着に
櫛カンザシまで投げ出し、心から彼を激励する。
茂兵衛はこの親切に涙を浮かべ、必ず横綱になり
今日の恩返しに土俵入りを見てもらいますと誓い
再会を約束して別れる。それから七年。

お蔦は一人娘のお君と二人で船印彫師の夫、
辰三郎の帰りを待ちながら飴売りをして
細々と暮していた。三年以上も家に
よりつかなかった辰三郎も無性に家に帰りたい
気持ちに。長い間苦労をかけた妻子にせめて
多少の貯えぐらいと思った辰三郎は、
波一里儀十の鉄火場でいかさま賭博をしかけ、
バレるやいなや金をつかんで逃げ出したのだが。




幾度も映像化される長谷川伸先生の股旅モノ。

当時50代の長谷川一夫氏が十代の相撲取りを演じる。
・・・と聞くとコントかよ?と思われるが、
当時はこれが普通だった。

令和の人々の心から消えかけている「義理と人情」の
世界。ただ一度、飯をごちそうになった間柄だが、
それを「恩」と感じて、この7年いつか返さねばと
生きてきた男。

いま、ようやくそのご恩返しの時がやってきた。

が、肝心の相手が憶えていない。
まったく憶えていない。

「どうにも思い出せない!」と繰り返す女(笑)
そこまで思い出せないなら、もういいよ!
無理に思い出さなくても。

結局、最後まで思い出さなかったようだ。
それでも長谷川一夫は満足。

そしてまた、見知らぬ誰かに恩を回して、旅を続ける。
日本人が忘れてはならない「心」がここにある。




■本編出演 長谷川一夫、月丘夢路、宮川和子、菅原謙二、
 藤原礼子、山本弘子、千葉敏郎、光岡龍三郎、水原浩一、
 市川謹也、伊達三郎、近江輝子、山路義人、
 澤村宗之助さんほか。




評価 ★★★☆☆
posted on 2024年10月05日 at 12:00 | 映画・邦画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする