
〔2023年/日本/ドイツ/ビターズ・エンド〕
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山は、
静かに淡々とした日々を生きていた。
同じ時間に目覚め、同じように支度をし、
日々同じように働いた。その毎日は同じことの
繰り返しに見えるかもしれないが、
同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日
として生きていた。
その生き方は美しくすらあった。
男は木々を愛していた。
木々が作る木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
それが男の過去を小さく揺らした。
役所広司ありき。
ドイツとの合作、ヴィム・ヴェンダース監督で、
役所広司さんプロデュース、さらに彼は
カンヌ国際映画祭で日本人2人目となる男優賞を受賞。
これらを聞くとすっげぇ映画なんだなぁ…と感じる。
確かに…「品」を感じる。
本編開始後、約30分は男が朝起きて、出勤。
各所の公衆トイレをひたすら黙々と清掃する姿が
映し出される。寡黙な男・・・という設定なので、
セリフもほとんどない。
トイレ掃除の手順を延々と観客は見続けなくては
ならない。でも「役所広司」だもん。
絶対なにか起こるわ・・・。
今まで数々の個性的な役柄を演じてきた役所広司だよ?
悪徳刑事でヤクザに殺され、ブタのエサにされたり、
黒田福美さんと生卵の口移しリレーを延々行ったり、
高橋英樹や春風亭小朝とまたまたまたまた斬りこんだり、
してきた男だ。なにかある。
しかし・・・ないなぁ。
見事になにも起こらない。
他人から見れば、同じ事を繰り返す姿を見せられる。
本人からすれば「同じ日は一度もない」のだが、
観客は「刺激」を求める。
でも、市井の人々の暮らしってこんなもんで、
暮らしの中の小さな楽しみを見つけて、それを糧に
生きてるもんだよな…と、延々続くトイレ清掃する
彼を見ながら勝手に自分で納得する。
が・・・映画だよ?これは。
このまま終わっていいのかしら。
中盤で登場するニコと呼ばれる少女が出現して、
観客が思い描いていた男の背景が一変する。
誰?この子?パパ活?別れた娘?
え、泊まっていくの?こりゃあヤバイよ!
色々と想像と妄想を膨らますのだが、
なんのことはない。姪っ子、妹の娘だった。
家出してきた娘をその妹が迎えに来るのだが、
それが外車にお抱え運転手つきの車でやってくる。
数少ない会話から、この清掃を生業とする男は、
とんでもない超絶金持ちの御曹司だとわからされる。
そうか・・・趣味の数々、楽しむ音楽が
一般大衆よりかなり格上だと思ったよ!
どうやら父親とは不仲で、今はもう惚けてしまった
父親であっても、会いたくないとうつむいてしまう程
過去に「なにか」があったようだ。
この場面を境にこの男と観客との間に距離が生まれて
しまった。「俺と同じだなぁ・・・」と親近感を
抱いていたのに、なぁ~んだ!金持ちの道楽で、
トイレ清掃やってんのかよ!
そりゃあ帰る場所がありゃあ、日々焦ることなく、
好き勝手に生きられるわな!とやっかんでしまう。
吉宗=上様が徳田新之助と偽名を騙り、下町に
紛れ込み、悪人とは言え、夜な夜な人間を斬り殺し、
ストレス解消してるようなもんだよ!
そこからの観客=ワシはもう、役所広司には冷たいね。
大体、トイレ清掃員が行く先々でこんなにモテる訳
ねぇじゃねぇか!キャバ嬢にはチュウされ、昼飯を
公園のベンチで食ってると、どっかの会社のOLが
熱い視線を送って来る。
行きつけのスナックではウイスキーのお好きなママが、
ほかのお客より一品多く出してくれる・・・。
あんたが役所広司だからだよ!
オレは役所広司ではないから、こんな生き方は
出来ないんだよ!帰るべき場所もないんだよ!
2時間かけて得たものは人をうらやむ感情。
でも、さすがドイツ人監督だけあり、絵面はとても綺麗。
■本編出演 役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、
麻生祐未、石川さゆり、三浦友和、田中泯さんほか。
評価 ★★☆☆☆
日本の映画の監督がドイツ人っていうのも、イマイチです。日本人の心情は日本人しかわからない(日本人でもわからない人もいますが)
コメントをありがとうございます。
この映画、若者代表で柄本時生さんが
出ておられますが、いかにも身勝手で
ワガママな令和の若者像を演じておられて、
期待を裏切りません。
10段階でいう所の15です。
兄の佑さんが「いい男」路線を突き進んで
いるのに比べて、彼は変質者、下着ドロ、
女風呂のぞきなど、確実に父親の芸風を
受け継いでいて好感が持てます。
彼もボクも役所広司にさえ生まれていたら、
人生はまた違うものになっていたでしょう。
それだけがつくづく残念です。